悩んでいる人
こんな方にオススメの記事です。
この記事のもくじ
はじめに
こんにちは、Hikaruです。
トランペットを演奏される方には、マウスピースを複数所持しており、ジャンルや本番によって使い分ける方が多くいらっしゃいます。
人によってはコレクターとと呼べるくらい色んなマウスピースを、時には同じ型番のマウスピースを何本も持っているなど、場合によっては沼にはまるがごとくマウスピースの数が増えていきます。
マウスピースを購入したり変えたりする時は何かしら機能的な理由だったり、音色へのこだわりだったりが理由にあります。
しかし理想のマウスピースを見つけるのは、本記事サムネイルのごとく砂漠の中から一粒の砂を見つけるくらい大変な作業になります。
トランペットの神様と呼ばれたモーリス・アンドレですら、理想のマウスピースと呼べるものには晩年になってようやく出会えたと述べていたほどです。
今回は私のマウスピース遍歴をご紹介すると共に、なぜそのマウスピースを選んだのか理由も付け加えて、その時の思考なども共有していきます。
どのような基準でマウスピースを選べば良いのか、一つの参考にして頂ければ幸いです。
筆者のマウスピース遍歴
- V.Bach 7C
- Yamaha 11C4
- Yamaha Custom-GP 14B4
- V.Bach 3B
- V.Bach 1-1/2C(#25/シンフォニックバックボア)
- アイルリッヒ ECOモデル 5C
- V.Bach Artisan 1-1/2C(#26)
- V.Bach 1-1/2C
- Yamaha 16B4NC
- ハモンドデザイン 6ML
- Bruno Tilz 6B
- Parke Hagstromモデル
- オーダーメイド(現在)
最初は小さいリムの物から、V.Bach 1-1/2Cで大口径の頂点を迎えてその後一気にまた内径が小さい物に変化していったのが見て取れますね。
ここに載っているマウスピース以外にも、中古で買ったは良いものの試奏程度でまた放流しているものなどもあるので、ここでは主に演奏や練習、レッスンを受ける際に使用したものを列挙しています。
①V.Bach 7C
私が中学生でトランペットを始めた時に学校で購入した(させられた)マウスピースです。当時はマウスピースに対する知識は皆無で、顧問が懇意にしている楽器屋の店主が選んだものを購入したようです。
リムが薄目なので今吹いてみると口に刺さるような感覚があり、私には形が合っていないマウスピースです。当時はよくこれで吹いていたなと思いますが、無知故の強さってありますよね。
一年くらいは何も考えずに7Cを使っていましたが、後にマウスピースに種類があることを知り、試奏などにも行くようになりました。
②Yamaha 11C4
我らがヤマハ、そのマウスピースの中でも特にスタンダードな11C4です。中学二年生になった頃に手に入れた記憶があります。
バック7Cでは物足りなくなり、ならばヤマハだろうと言うことで深い理由はなく試奏をして購入しました。
リムバイトがバック7Cよりもはっきりしているので発音がしやすく、できることが一気に増えたのでトランペットが楽しくなった時期でもあります。
この頃にマーラーなどクラシックにドハマりし、11C4で「巨人」を吹いてたりしました。今考えると面白いですね。
現在は廃盤となっているカスタムシルバーと呼ばれる総銀製(通常は材料が真鍮のところ、銀を使っている)のマウスピースも同時期に購入しました。
あまり吹かなかった上に今は手元にありませんが、これも不思議な響きのする面白いマウスピースでした。
YAMAHA Standard【トランペット用マウスピース】
③Yamaha Custom-GP 14C4
ヤマハのカスタムシリーズと呼ばれるマウスピースです。通常のマウスピースよりもヘビータイプで、当時はかなり物珍しかったので購入しました。
これは中学校三年生になる直前に購入しました。口径が大きくなったのでよりクラシカルな太い音が出せるようになり、オケスタで遊んでいた私にとっては非常に楽しいマウスピースでした。
このマウスピースで吹奏楽からオーケストラまで手広く演奏できていたので、当時の私にはかなり合っていたマウスピースなのでしょう。(今だとこれでも少し内径が大きいなと感じます)
金メッキを知ったのもこのマウスピースが初めてで、口当たりが滑らかで好きでした。以後数年間はこちらのマウスピースでプレイすることになります。
④V.Bach 3B
ヤマハのカスタムから時間がかなり飛び、こちらは大学生の頃になります。
実は高校二年生の途中から大学二年生くらいまでの三年間くらいはほとんど楽器を吹いていなかったので、実質このマウスピースが復帰第一号のものになります。
この時最初は3Cを購入するつもりでお店に行ったのですが、試奏した際に3Cのカップの浅さが好きになれず、当時のスタイルや実力だとクラシックを吹くには音が明るすぎると感じていました。
一緒に試奏したのがこの3Bで、3Cと同等のリム内径でありながらリムにやや厚みがあるため口へのフィット感が良く、カップの深さからくる音の豊かさも相まって、こちらの購入しました。
3Bが採用しているシュミットボア(7番)はスタンダードに比べて、バックボアの開きがストレートかつ大きく広がっていくので、真っ直ぐかつ大砲のように息が入っていく感覚で、かなりダークな音色になります。これが気に入っていました。
この3Bも数年ほど使い続けることになります。
⑤V.Bach 1-1/2C(#25/シンフォニックバックボア)
一時期東京芸大を中心に流行りました、大口径マウスピースにスロート拡張およびシンフォニックバックボアを加えた超大音量&超豊かな音色を目指したモデルです。(ある奏者の名前を付けて●●モデルなんて呼ばれていました)
こちらは友人が使っていたものを譲ってもらいました。当時はあまり気にしていませんでしたが、今だと考えられないくらいに私にとっては大口径のマウスピースです。
音大生と言えば1-1/2Cと言うのが定説で、それに倣ってみた意図があります。
実際音色はかなり良く、吹奏感も見た目のスペックほどは息が抜け過ぎず、程良い抵抗感がありました。
しかし大口径マウスピース特有の唇周辺の筋肉疲労によるスタミナ消費に悩まされることになり、このマウスピースは封印することになります。
⑥アイルリッヒ ECOモデル 5C
日本の千葉県に工房を構えるアイルリッヒのマウスピースです。
アイルリッヒはトロンボーンとトランペットのマウスピースをメインに製作しており、オーダーメイドまで請け負ってくれるメーカーになります。
こちらのECOモデルはハンドメイドで製作されており、完成度の高いモデルです。
1-1/2Cのシンフォニックモデルのような超大容量マウスピースから足を洗い、一度全く別のメーカーに手を出してみようと踏み込んで購入しました。
リムは平らですがリムバイトとアウターエッジが丸いので、口へのフィット感はしっかりしつつも柔軟なコントロールができるモデルでした。太い音でギラッとした存在感のある音色です。
これもしばらく使い続けることになるのですが、スロートサイズが通常であれば3.65mm(#27)のところ、アイルリッヒは3.8mm(#25)とかなり大きく、息が取られる感覚に段々と陥ったため、泣く泣く変更することになります。
この時期には大学を卒業後就職したものの数か月で仕事を辞め、無謀にもトランペットの道を進もうとしていたため、迷走が始まります。
⑦V.Bach Artisan 1-1/2C(#26)
購入したのは当時販売開始から二年ほどの頃だったでしょうか、ニューヨークバックのマウスピースを復刻したアルティザンです。
アイルリッヒのリムが段々と体に合わなくなってきたのと、この時期は音楽学校の受験等も視野に入れていたため、アカデミックスタンダードへ合わせようと、改めて大口径のマウスピースの購入に踏み切りました。
アルティザンのリムは当時のものを再現しており、現在のシルキーに近い丸いリム形状が特徴です。ある程度の厚みがあるので口に当てた時にフィットしやすく、人によってはかなり好きな感触だと思います。
バックボアは基本的にシンフォニックボアが採用されており、かつスロートが狭いためシンフォニックボア特有の良すぎる息抜けをスロートの抵抗感でカバーするという、非常にバランスの取れたマウスピースです。
しかし当時の私はオケ吹きでもないのに大音量と厚い音色第一主義の人間だったため、残念ながらスロートを拡張してしまいます。
当初は悪くないと感じていましたが、やはり既製品はその時点で完成しているのですね。スロートを拡げたことで全長のバランスが崩れ、抵抗感がかなり少なくなってしまいました。
そういう意味では失敗してしまったマウスピースです。音色は大変良かったです。
⑧V.Bach 1-1/2C
音大生からプロにまで、上級者に幅広く愛されるバック1-1/2Cです。多くの方が一度は通るこの道を私も通りました。こちらもアカデミックスタンダードのために購入したマウスピースです。実際にこちらで受験まで行っています。
こうやって書き出してみると、「型にはまること」に私は固執していたんだなと改めて思います。
アルティザンのシンフォニックボアと異なり音がしっかりとまとまるため、よりバランス型のマウスピースです。特にソロ曲で活躍し、ベーメやトマジのコンチェルトなどをこのマウスピースで乗り切ってきました。
トランペット界の象徴とも言えるマウスピースで、一時期は会う人ほとんどがこの1-1/2Cを使用していた印象があります。
バックの中でも完成度の高い傑作マウスピースの一つだと思いますが、私自身が小柄で息を大量に必要とする大口径のマウスピースでの演奏は体にかなりの負担がかかっていました。
騙し騙しでほぼ一年半ほどこのマウスピースを使い続けそれなりの結果も残すことができましたが、やはりこれ以上大口径のマウスピースで演奏するのは苦しいと判断。
自分には小さい口径のマウスピースが合っているのではないかと考えるキッカケになりました。
⑨Yamaha 16B4NC
ヤマハの中でも銀座本店でしか取り扱っていない、通称「中川モデル」と呼ばれるマウスピースです。
受験に失敗した直後、1-1/2Cの使用を辞めてこのマウスピースを使い始めました。やはり1-1/2Cでは限界を感じてしまったのです。
中川モデルは「日本人の骨格に合わない西洋のマウスピースからの脱却」をコンセプトに、トランペット奏者の中川喜弘氏のマウスピース研究がベースになっています。
通常モデルの16C4と比べてスロートは28番と1サイズ小さく、バックボアも中川氏特製のものになっているため、全く異なるバランスのマウスピースです。
特徴として「えぐり」と呼ばれる加工がリムとカップの境界に施されています。モンゴロイドである私たち日本人はコーカソイドである欧米人と比べ、骨格の関係で唇がカップの底やカップの周辺に触れやすく、振動が止まる原因となってしまいます。
えぐりが施されることでカップ内に空間ができるので、その分唇ががカップに付着することを防ぐ効果があります。
私自身はカップがそこに着くようなことは今までもなく、えぐりによって得られるもう一つの効果を確かめるためにこちらのマウスピースを購入しました。
えぐりのもう一つの効果は、カップの容量が増えることで音量や音色が大口径のマウスピース寄りになることです。
⑩ハモンドデザイン 6ML
ハモンドデザインの6MLはバックで言えば7~5番程度の内径なので、小さめのマウスピースと言えます。
こちらも中川モデルと同様にえぐりを持つマウスピースで、シカゴ交響楽団のジョン・ハグストロム氏も愛用しています。今まで使っていた1-1/2Cのような大口径のものから一気に小さい口径のマウスピースへシフトしたタイミングでした。
この頃から私の中では理想のマウスピースのイメージが膨らんできていて、ハモンドデザインを手にすることで、小さい内径のものが自分に合っているということに気付くことができました。
しかし内径が小さいマウスピースは、必然的にカップの容量も少ないことになります。
いわゆる小さいマウスピースはスタミナの増強やコントロールのしやすさにつながりますが、反面音色の豊かさがオーケストラ向きマウスピースに向けて痩せる傾向があります。
そこで次に私はバックボアについて考えていることにしました。
⑪Bruno Tilz 6B
ドイツのメーカーで、マウントバーノン時代のバックのマウスピースをベースに開発されているマウスピースです。
ハモンドデザインとほぼ同様のサイズ感で、バックボアに焦点を当てて選んだマウスピースです。
スタンダードボアではコンパクトだが音量や音の厚み、迫力に欠ける。シンフォニックボアでは文句なしの音量や音の豊かさを得られるが、息を多く取られ小回りが利かなくなる。
マウントバーノン時代のバックマウスピースのバックボアは、現在のスタンダードとシンフォニックの良いとこどりをしたようなもので、芯があり音色は深く、軽やかな演奏がしやすいという特性を持っています。
私の目論見に間違いはなく、このティルツのマウスピースのバックボアはかなり理想に近いものでした。
ですがやはり内径の小ささ=カップの容量の少なさの面で今一歩及ばず、ここから打開策を模索することになります。
マウントバーノンバックボアについては以下の記事で詳しくまとめています。こちらもご覧ください。
⑫Parke ハグストロムモデル
私にとって運命的な出会いとも呼べるマウスピース、それがこのパークから出ているジョン・ハグストロム氏のシグネチャーモデルです。
詳しくは以下の記事でもまとめていますが、リム内径はバック7番より小さい程度のものですが、カップがバックの1Bと同等というアンバランスとも言えるスペックを持つマウスピースです。
いわゆるえぐりの超強化バージョンが施されていると思って頂ければ概ね間違いなく、えぐりによって得られるカップ容量増大効果を最大限に発揮しています。
ハグストロムモデルについての詳細記事です、こちらもご覧ください。
ジョン・ハグストロム氏が私と同様に大口径のマウスピースだと音は良いがスタミナに難点があるという悩みを解消するべく生まれたマウスピースで、私の悩みと合致した瞬間でした。
リムの感触、えぐりの効果が完璧で、以降の私のベースマウスピースとして君臨することになります。
しかしこのハグストロムモデルはシンフォニックボアを採用しているため、さらなる改良の余地がありました。ここで活きてきたのがティルツによるマウントバーノンバックボアの経験です。
⑬オーダーメイド
ここまでの流れで、私は以下のようなマウスピースを一つの完成形として掲げることにしました。
- リム形状と内径はハグストロムモデルと同様か近しいもの
- カップ容量はハグストロムモデルよりもやや少ないもの
- マウントバーノンバックボア
このような希望を満たすマウスピースは残念ながら市販されてはいません。そこで私はオーダーメイドでマウスピースを作成することにしました。
マウスピース職人で有名な亀山氏にパークのハグストロムモデルをベースに作成頂き、細かな部分にマイナーチェンジを施すことで、かなり理想に近いものを手に入れることができました。
- シンフォニックボア→マウントバーノンバックボアへ変更
- カップ容量1B→1CB(1Cと1Bの中間)へ変更
- スロート26番→3.6mm(27と28番の中間)へ変更
これによってパークでは実現できなかった音の歯切れの良さ、息が取られ過ぎない感覚、息を吹き込んだ時の抵抗感を手に入れ、現時点で最良のバランスで演奏することができています。
まとめ
非常に長くなりましたが、私のマウスピース遍歴をご紹介しました。
特に深い理由がなくマウスピースを変えたり、逆に思い悩んで別のものにしていたり、その時々の思惑が見て取れるかと思います。
マウスピース選びは一筋縄ではいかず、その人の立場によっては自分に合ったものという基準ではなく「周囲と同じもの、または近しいもの」という基準で選ばざるを得ない状況にある方も、中にはいらっしゃるかもしれません。
1-1/2Cを使っていた頃の私がまさしくそれで、とにかく周囲に合わせなければという焦りから選択を誤り、結果的に遠回りをしてしまいました。
マウスピースは靴と同じようなものですから、本来誰かと合わせるようなものではないのですが、当時の私は固定観念に捕らわれていたのです。
今はその呪縛からも解き放たれているので、とにかく自分に合ったものを追求していくという軸のもとで、今も時々新しいマウスピースを購入しています。
皆さんがどのような思考を巡らせてマウスピースを購入しているかは分かりませんが、今回の記事中の私の思考が皆さんのマウスピース購入の指標にほんのちょっとでも良い影響を与えられたら嬉しいです。
今回はここまで、それではまた!
今回の記事で出てきた用語や、マウスピースの各部機能についてまとめた記事です。
個人的初心者向けのマウスピースについてまとめた記事です。
バックの人気があるとされる奇数型番についてリムやカップなど様々な視点から検証しました。