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熱処理に関する備忘録

はじめに

こんにちは、Hikaruです。

今回は役立ち記事というよりは、備忘録やメモのような記事になります。

主題は金属、特に私たち金管楽器に関わりの深い真鍮に対する熱処理に関する内容となっています。

そもそも「熱処理とはなんぞや?」という方も多いでしょうから、ざっくり概要を説明します。

MEMO

熱処理とは、製品の材料となる金属や素材に対して熱を加えることで、素材の性質を変化、向上させること。

これだけだとまだイメージが湧きにくいですが、熱処理は食材にも使われる言葉です。

熱処理の身近な例だと牛乳があります。牛乳は牛から絞られた生乳をそのままパック詰めしているわけではなく、工場などで高温の熱を加えて殺菌をしてから私たちの手元に渡ってきます。これも熱処理の一つです。

金属に関してイメージしやすいのは、高温で熱して真っ赤になった金属をハンマーでガンガン叩くのがイメージしやすいでしょうか。金属を熱して柔らかくすることで、その状態で外部から力を加えることで加工しやすくしている、という図式です。

ちなみに日本金属熱処理工業会では「赤めて冷ますこと」と記載されています。

真鍮について

真鍮については以前の記事でも解説していますが、今回は温度の観点で突っ込んで見てみます。

 

 

真鍮は合金という性質のため、配合されている金属の割合によって若干溶融温度は変わってきますが、概ね900~1000℃で、金属としては溶融温度が低く加工がしやすい金属とされています。

また熱しない状態でもかなり柔らかい金属です。あまり考えたくはないですが、真鍮製の楽器やマウスピースを手を滑らせて床に落としただけでも凹むことからも、イメージがつきやすいと思います。

このように柔らかい金属ですから、熱していない状態でも加工がしやすい金属とも言えます。金属を熱していない状態で加工することを、「冷間加工」と言います。真鍮製品は楽器に限らず冷間加工で製作されることがほとんどです。

ただし冷間加工に付きまとうのが応力や、真鍮に関して言えば置き割れの現象です。

MEMO
  • 冷間加工:常温で金属を曲げたり切ったり、様々な加工をすること。対義語は温間加工(金属に熱を加えて柔らかくしながらする加工)
  • 置き割れ:真鍮を加工する際に発生する応力により、目に見えないレベルで真鍮が変形。変形した箇所に水分や塩分、アンモニア等が入り込み、腐食して割れてしまう現象のこと。
  • 応力:金属の単位面積(1m㎡)にかかる力で、加工の仕方によって多数の方向に力がかかる。応力が極大になると、その金属は破壊されてしまう。

特にマウスピースや楽器は複雑な形をしているので、金属棒から加工することで色々な場所に応力がかかっていると想定されます。この応力はストレスとも呼ばれます。

応力が強くかかっている金属は、例えるなら常に握りしめられていたり、引っ張られていたりと色んな力が加わっている状態なわけです。

私たち金管楽器奏者に言い換えれば、音の源泉である唇をギュッと強く閉じたり、不必要に横に引っ張った状態で振動を生み出そうとしている状態が、ストレスがかかっていると言えるでしょうか。

恐らく上記の状態だとうまく音は出ない=振動が生み出されないと思います。金属における応力はこれと同様です。

 

熱処理について

熱処理は初めに書いたように「製品の材料となる金属や素材に対して熱を加えることで、素材の性質を変化、向上させること」です。

その熱処理の用途は様々で、目的によって温度や方法を使い分けられます。

熱処理の中に「焼なまし」というものがあり、これが応力を取り除くために用いられる熱処理の方法です。

応力除去焼きなましや低温焼きなましとも呼ばれ、ある一定の温度まで熱した後に時間をかけてゆっくりと冷やしていく手法が主に採用されます。

では応力除去焼きなましに適した温度はどのくらいなのかと言えば、明確に「この温度だ!」と決め打ちするのは非常に難しいです。(更に言えば私は金属加工の専門家ではないので……)

ですが以下の資料より、おおよそのアタリを付けることは可能です。

タイトル
黄銅板の圧延による残留応力の測定

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1933/24/279/24_279_243/_pdf

こちらは圧延された黄銅(真鍮)、つまりローラーのようなもので平べったく圧縮された真鍮を対象とし、30分間高温にさらし続けた時の、温度による性質の変化についてデータ化し、考察しています。

資料中の図4に、「加熱温度と残留応力及び硬度との関係」とあり、資料中には硬度・残留応力線グラフで示され、横軸には温度が示されています。

グラフを読み解いていくと、100℃を超えた辺りから残留応力が除去され始め、300℃で「表層部に存した約5.0kg/m㎡の引張応力が既 に 殆んど除去され」と文中にあることから、おおよそ300℃程度まで熱することでほとんどの金属表面の応力は取り除かれたことになります。

硬度の観点で見ていくと、200℃を超えた辺りから硬度が落ち始め(=柔らかくなる)、温度が上がるにつれてどんどん硬度が落ちているのが分かります。

ここまでのグラフの内容から推論すると、300℃まで熱することで応力の大半が除去され、また金属へ与える影響も比較的少ない、となります。

俗にマウスピースや楽器への高温による熱処理と言われる加工は、応力除去焼きなましを行っているものと私は予想しています。(それ以外で楽器に熱処理をする意味が浮かばないので)

業者によって熱する方法や温度、熱する時間、また冷却に要する時間や冷却の方法が変わると思われますので、この違いが加工による効果の差異につながってくるのでしょう。

まとめ

熱処理というのは存在という目に見えるものに対して、目に見えない処理を行うものですから、人によっては胡散臭いと感じたり、そもそも効果があるのか疑問に思われる方がいても不思議ではありません。

私はその感覚は普通だと思いますし、普段の生活で熱処理に関して何かを意識することはまずないと思います。

しかしよく調べてみれば熱処理は食品に対しても行われていることから、それ自体は私たちの身近にありふれているもので、それを楽器に対して行っているだけに過ぎません。

メーカーによっては販売する前に自社で熱処理を実施していることを謳っているメーカーもあるので、彼らは間違いなく専門的な知見やデータに基づいて行っているはずですから、全く意味がないはずはありません。

実際にデータとして熱処理に関する情報が出ている以上、全く効果がないと言い切ることはできませんし、個人的には楽器にとって意味がある処理なのだと考えています。

今回はここまで。

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