悩んでいる人
こんな方にオススメの記事です。
この記事のもくじ
はじめに
こんにちは、Hikaruです。
マウスピースにおけるバックボアは単なる筒状ではなく非常に複雑な形をしていて、音程のバランスや音域の演奏に大きな影響を与えます。マウスピースにおいては音程のバランスを取ったり、音色を決定づける部分となります。
なのでマウスピースの各部分においても特に重要とされています。
バックのマウスピースは時代によってバックボアを含む各部分の形やスペックが異なっているので、数十年前のマウスピースと現代のマウスピースは同じ型番であっても全く違うリムやカップ、バックボアを持っているのです。
そのような過去のバックのマウスピースは「古き良きバック」と呼ばれて今でも人気が高く、当時のマウスピースを再現しようとするメーカーも多くあります。
今回はその中でも「マウントバーノン(Mount Vernon)」時代と呼ばれるバックボアは現在も評価が高く、現行のモデルにはない音色と吹奏感を持つバックボアです。
今回はこのマウントバーノンバックボアと、これに関連するマウスピースについて解説します。
マウントバーノンとは?
マウントバーノンという言葉は、アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンのプランテーション名がマウントバーノンであったことに由来し、英語圏の多くの国で使われる地名となりました。
トランペットメーカーであるバックのマウスピースや楽器においても、マウントバーノンと呼ばれるものが存在しています。
これは1953年にバックがニューヨーク州マウントバーノンに工場を移転したことが由来となっています。
最高峰のマウントバーノンバック
1953年にニューヨーク州マウントバーノンに工場を移転したバックは、トランペット製作を加速させていきます。
バックは後に1961年にセルマーに買収され、1965年にはエルクハートへ工場を移転してしまいますが、マウントバーノン移転からここまでの時代は、ヴィンテージバックの中でも最高峰として名を馳せます。
そしてマウントバーノン以前のニューヨークバックと呼ばれるトランペットやマウスピースから、現在のストラディバリウス(通称:ストラド)と呼ばれる楽器の原点ともなるマウントバーノンバックを完成させました。
このマウントバーノン時代の楽器は特に完成度が高く、現在でも血眼になってアマチュア・プロ問わず探している方が多くいらっしゃいます。
現在よりも人間の手で製作された部分が多いため、職人の個性が色濃く出る楽器が多かったようです。(その分品質にもバラつきがあるのだとか)
同時にマウスピースも現在販売されているものとは同じ型番であっても内容が大きく異なり、全くの別物となっているモデルも数多くあります。
特に大きな違いがあるのは、バックボアです。
★機能としてのバックボアについて詳しく知りたい方はこちらを参考にどうぞ。
マウントバーノンバックボアと現行のバックボアの違い
バックのマウスピースは通常のCカップのモデルであれば「10」番のスタンダードバックボアが使用されています。この10番のバックボアはマウントバーノン時代に使用されていたバックボアを踏襲しています。
しかしこの現行10番のスタンダードバックボアとマウントバーノンバックボアは形状が異なっており、当然音色や吹奏感にも変化があります。
-
スタンダードに比べダークな音色。
- スタンダードに比べバックボアに開きがある。
- スタンダードの方がコンパクト
またマウントバーノンバックボアは、現行「24」番のシンフォニックバックボア(これも人気です)にも似ていますが、やはり微妙に形状が異なるとのことです。
以前マウスピース職人で有名な亀山氏とメールさせて頂いた時に伺った内容がありますので、抜粋します。
-
シンフォニックは、ほぼストレートに、末広がりに拡がっていく形状、
- マウントバーノン時代のものは、途中で広がりが緩くなり、末端にかけてまた広がる形状。
- シンフォニックはオープンな吹奏感、音量が出し易く、幅広な明るい音が出せます。
- マウントバーノン時代のものは、響きがコンパクトにまとまり易い、密度のある音が得やすいなどの特徴があると思います。
上記のスタンダードバックボアとシンフォニックバックボアとの比較からマウントバーノンバックボアは以下の特徴を持っていると言えます。
- シンフォニック的な音の広がり方と、スタンダードのコンパクトさの両方を備える
- 密度のある音色
- ダークな音色
- バックボアが途中で広がりが緩くなり、末端にかけてまた広がる形状のため、シンフォニックに比べ抵抗が作りやすい
分かりやすく書けば、スタンダードとシンフォニックの良いとこどりをしているような印象ですね。
実際に私はマウスピースにマウントバーノンバックボアを採用しており(亀山氏に以前作成頂きました)、今のところそのマウスピースが総合的に最高の音色と吹奏感を実現できているといったような状態です。
現代に蘇るマウントバーノンバックボア
バックのマウントバーノンバックボアはそれ以後のトランペットマウスピースの世界に衝撃を与えました。多くのメーカーがバックをお手本とし、より良いマウスピースを生み出そうと活気に溢れました。
しかしセルマー傘下となったバックが1965年に工場をエルクハートへ移転した頃から、マウントバーノンバックボアは失われていきます。
そして現在に至るまで、バックを含む数多くのマウスピースメーカーがモデルを出しており、トランペットマウスピース界隈は多様性に富んでおりますが、今後オリジナルのマウントバーノンバックボアが生まれてくることは残念ながらありません。
ですがご安心ください、マウスピースメーカーの中には製造されなくなってしまったバックのマウントバーノンバックボアを参考にした製品を、もしくはマウントバーノンバックボアを再現しようと躍起になっているメーカーが存在しているのです。
ここからはマウントバーノンバックボアを現代に蘇らせたメーカーを紹介します。
B.Tilz(ブルーノ ティルツ)
ティルツはドイツのマウスピースメーカーです。以前こちらの記事でも紹介させて頂きました。
ティルツはドイツ本国を始め日本でも高い人気を誇るマウスピースメーカーで、バコモデルと呼ばれるモデル群はマウントバーノンバックのマウスピースをベースに製作されています。
全体的に芯のあるダークな音色のマウスピースで、これはマウントバーノンバックボアの特徴と一致します。
個人的にはリムの感触がとても好みで、厚めのリムが多いので口に馴染むモデルが多いです。
私がマウントバーノンバックボアのマウスピースをオーダーメイドするきっかけとなったメーカーで、実際に出来上がったものと吹き比べてもほぼ同じ音色と吹奏感なので、再現度はかなり高いと言えるでしょう。
値段もバックより少し高い程度なので、手が出しやすいですね。
Stork(ストーク)
ストークは金管楽器のマウスピースを製作しているアメリカのメーカーです。
品質の高いメーカーとして日本でも人気があり、「ヴァッキャーノモデル」や「スタジオマスター」が有名です。
しかしこのストークがバックのマウントバーノン時代のマウスピースを再現したモデルを販売していることは意外と知られていません。
それが「ニューヨークコレクション」と呼ばれるラインナップです。
ニューヨークコレクションには「マウントバーノンモデル」と「オーケストラモデル」が存在しており、マウントバーノンモデルは名前の通り、まさしく古き良きマウントバーノンバックを再現したマウスピースになります。
モデルの紹介文にも「(マウントバーノンは)現在のモデルに見られる標準的なバックのバックボアよりも大きいバックボアを持つ」と記載されています。
残念がら日本で取り扱っている店舗はほとんどないですが、個人輸入で取り寄せることが可能です。
完全なマウントバーノンマウスピースを再現をしているメーカーは数少ないので、当時の音色を体感したい方はこちらの「マウントバーノンモデル」をぜひ試してみてください。
ただし外形はストークのものになりますので、完全な外形までのコピーではないことはご承知おきください。
シャイアーズ
シャイアーズは1995年に設立されたアメリカのメーカーで、元々はトロンボーン製作をメインにしていました。現在はトランペット、そしてマウスピース製作をも手掛けるメーカーです。
シャイアーズは「伝統的なサウンドの再現」という目標を製作理念として掲げており、トランペットマウスピースもそれに漏れずに製作されています。
アメリカン・クラシック・シリーズはニューヨーク、マウントバーノン、エルクハートの膨大なヴィンテージ・マウスピースの中から最良の個体を再現し、かつシャイアーズ独自の技術が加えられたマウスピースです。
マウントバーノン時代の古き良きバックを認めながら全く新しいマウスピースへと昇華させたことで、一躍注目を集めています。
私もシャイアーズのマウスピースは所持していますが、マウントバーノン時代のバックボアの良さを忠実に再現しており、特にマウントバーノンバックボアに使われていた28番スロートを採用しているところに好感が持てます。
こちらはストークよりも外形がバックのものに近いので、よりマウントバーノン時代のマウスピースに近いものを試したい方にはオススメのメーカーです。
まとめ
今回はマウントバーノン時代のバックのマウスピース、そのバックボアについて紹介しました。
バックというメーカーは歴史が長く、また多くのメーカーが模倣したことから現在のトランペット界においてはスタンダードとなっていますので、バックを知ることはトランペットを知ることにつながります。
特にマウスピースは完璧に自分に合うものを探すのが大変難しいので、このように古い時代のマウスピースも参考にしてくと、選択肢がぐっと広がっていきます。
ぜひ今回の記事がみなさまの参考になり、より良いマウスピースと出会うきっかけとなったり、楽器メーカーについて勉強するきっかけになれば嬉しいです。
今後、私がオーダーメイドしたマウスピースも紹介していく予定ですので、そちらもお楽しみに!
今回はここまで、それではまた!