悩んでいる人
こんな方にオススメの記事です。
この記事のもくじ
はじめに
こんにちは、Hikaruです。
楽器の上達を目指したい場合、当然練習が必要になります。
練習の方法としては俗に言う基礎練習と呼ばれるメニューをこなすことが主になるかと思いますが、それだけではどうしてもバリエーションに乏しくなります。
練習のバリエーションが少ないと対応できるリズムや音程の幅を広げるのが難しく、それはつまり曲においてもできることをなかなか増やせないということでもあります。
自分自身で基礎練習からバリエーションを広げて、自分流の教則本が作れれば一番良いのですが、そこまでに至れる方はそう多くはありません。
そこで役に立つのが、作曲家や演奏家によって出版された教則本です。
トランペットや金管楽器にも多くの教則本が世に出回っており、その用途も様々です。
例えばリップスラーに特化したコリンのリップフレキシビリティ、ピストンワークとスケールに特化したクラークのテニクニカルスタディなどの、特定技術を伸ばすことを主な目的とするタイプの教則本があります。
特化型の教則本は他の技術がある程度成熟したタイプの人に向きますが、逆に言えばあまりに初心者の方には不向きです。初心者にとって大事なのはバランスよく、多くの技術を底上げしていくことです。
アーバン金管教則本の概要
トランペット界のバイブルであるアーバンは、様々な要素を取り入れた全集タイプの教則本です。
現在日本で販売されている中で最も有名なのは、上記画像の白い表紙のもので、全部で3巻が出版されています。こちらの教本は第1巻にあたります。
アーバンは金管楽器、特にトランペットやコルネットにおいてはバイブル的教則本で、1864年にジャン・バティスト・アーバンにより出版されました。
今日までアマチュアからプロまで幅広く使用されている全集教則本です。
アーバンはヴァイオリンの悪魔的名手、パガニーニの影響を強く受け、当時バルブシステム(ピストン)が採用されたコルネットにおいても超絶技巧が可能であると信じました。
結果アーバンはコルネットのポテンシャルを最大限引き出し、コルネットが主題やメロディを奏せるようになり、あらゆるテクニックの習得から類まれな芸術性を有する奏者の誕生、いわゆるヴィルトゥオーゾ化を進めました。
コルネットのソロ楽器としての名声をアーバンが勝ち取ったことで、元々コルネット用に出版されたアーバン教則本はその後出現したピストントランペットにも転用され、今やアーバンはトランペットの教則本として世界的に有名となりました。
アーバン金管教則本の目的と意味
アーバン教則本は以下の目次を持っています。
- 音程とリズムの基本練習
- スラーの練習
- 音階の練習
- 装飾音の練習
- 音の跳躍と和音の練習
- タンギングの練習
この6つの大目次の中にあらゆるリズムパターン、あらゆる調の練習曲が含まれています。また難易度もやさしいものから高難度のものまで幅広く収録されているので、各目次の中でも抜粋すればトランペット初心者であっても演奏できる練習曲が多く存在しています。
そんなアーバン金管教則本の最も主となる目的としては、音を出すという行動をいかに楽にしていくかというものが挙げられます。
教本の中身を分析していくと、各目次・各章の頭の方の曲は楽譜だけを見ると非常に簡単です。意外と軽視されがちですが、この簡単な練習曲たちが上達のカギを握っています。
ここでは曲の難易度とある人の技術を数値化して解説します。
・Aさんの演奏技術レベル:10
・アーバンの簡単な曲に必要な技術レベル:5
・アーバンの難しい曲に必要な技術レベル:15
Aさんがアーバンの簡単な曲を演奏するケースでは、Aさんが今持っている技術で十分に対応ができますから、より効率的に楽に練習ができ、無理をかけずに最大限の効果を得ることができます。
トランペットは音量に比べて非常に繊細なテクニックを要求される楽器です。奏法に無理があるまま練習を続けると成長を阻害してしまう可能性があります。
Aさんがアーバンの難しい曲を演奏するケースでは、Aさんの持つ技術レベルを遥かに超える曲を練習することになります。つまり効率的な奏法が身につかず、下手をすると調子を崩してしまうかもしれません。
なので今自分が演奏できる最も難易度が高い曲~やや簡単な曲をバランス良く用いて練習するのが、調子を崩さずにいるために必要です。
アーバンは上記で示したような技術レベルの低いものから高いものまで、中間レベルのものも含め収録されていますから、初心者から上級者まで幅広く使用することができる教則本です。
初心者であれば全音符しか使われていないような練習曲を、上級者であればダブルタンギングや跳躍などのテクニカルな練習曲のように、自分に合ったレベルのものを選定することができます。
これは自分の技術レベルを磨くのと同時に、自分が今どの程度の技術レベルを持っているのかを内観する力を磨き、ひいては他人が今どの程度の技術レベルを持っているのかを見極められる、
つまり自分自身が他人にレッスンを行うようになった際に、適切な教材を提供できるようになる、レッスンのための能力を磨けることに他なりません。
また一度通過したレベルの練習曲を改めて練習することで、奏法をさらに盤石なものにすることもできます。
実際にプロ奏者となっても、アーバンの中では最も基本的と言われる音程とリズムの基本練習からあえて抜粋して練習やウォーミングアップを行う方もいらっしゃいます。
それだけ楽器の奏法において、基礎が重要ということの裏返しでもあります。
そして自分が教える側になった時、適切な課題を提供することでその人の技術を伸ばしてあげられる、こんなに素晴らしいことはありません。
- 楽に音を出せるようにする ※最重要
- あらゆるリズムパターン、調を練習する
- 自分に合った難易度の練習曲を選定することで適切に上達する
- 自分や他者の技術レベルを見極められるようにする
アーバン第2巻(14の性格的練習曲)について
アーバンの第1巻は基礎的練習のエッセンスがふんだんに盛り込まれた名著と呼べる教則本です。
しかし一つ弱点としてフレージングやコンコーネのような歌唱的練習にはあまり向いておらず、どちらかと言えば機能的・機械的な練習曲が多く収録されています。
また各練習項目には特化していますので基礎力は大変身に付きますが、技術を組み合わせた練習曲は少ないので応用力の醸成にはやや不向きとなります。
さらなる技術の向上を目指したい方には、まずは第2巻にあたる「14の性格的練習曲」に挑戦してみることをオススメします。
タイトルの通り全部で14の練習曲が収録されており、そのどれもが多数の技術を複合して作曲された高難度のものばかりとなります。トランペット教育においてもレベルの高い教材の一つです。
第1巻で培うことができる個々の演奏技術のうち、多数のエッセンスが一曲の練習曲に盛り込まれており、その難易度は第1巻の比ではありません。
私自身、何年もかけてこの14の練習曲に挑んできましたが、未だ納得できるだけの域には達せていません。これらの練習曲をどれだけ音楽的に演奏できるかを目標に取り組むことで、技術だけでなく芸術性も磨くことが可能です。
かのモーリス・アンドレはこの14の練習曲をトランペットを始めて数年でミス無しで吹き切ったというのは半ば伝説的に語られています。
アーバン第3巻(12の幻想曲とアリア)について
第3巻は第2巻までとは違い、完全なる楽曲を集めた楽譜になります。
第2巻まででも各種技術に加えてフレージングを学習することはできますが、あくまで練習曲としての側面が大きい物でした。
そのためアーバンはついに芸術音楽として独立した主題を持つ楽曲を作曲し、出版しました。それがこの「12の幻想曲とアリア」です。
基本的に主題と各種バリエーションを有した楽曲が収録されており、トランペットのレパートリーとして有名な「ヴェニスの謝肉祭」もこの巻に収録されています。
音楽大学の入試課題としてこの巻から選定される楽曲もあるため、基本的にはレベルが高いと言えるでしょう。
また音楽的表現を磨くという意味では、第1,2巻よりも遥かに優れた教材であり、各曲が音楽として独立したものになっているので、単なる練習曲集というよりは曲集と言った方が正しいかもしれません。
第1,2巻までで培ってきた各種技術を音楽を表現するための糧にし、惜しみなく発揮させることを目的として練習することで、その他の楽曲を演奏する時にどのようなフレージングをすれば良いか、どのような表現をするかのヒントになるでしょう。
まとめ
アーバンはトランペット界においては初心者からプロに至るまでに親しまれ、現在も多くの方が上達のヒントを得るために使用している教則本です。
初心者であれば音の出し方から学ぶことができますし、上達してくれば複数のパターンや調、そして技術の応用、果てはそれら技術をふんだんに用いた楽曲まで用意されている。
ここまで幅広く学習できる教則本は決して多くありません。
それこそがアーバンが愛され続けている理由でもあります。
記事のサムネイルにもありますが、かつてアーバンは黄色い表紙のものが販売されていましたが、現在は白い表紙に改版されており、また翻訳に携わった方も異なっています。
それであってもアーバンの持つ目的や意味は全く変わっておらず、また今後もトランペットを学ぶ全ての人たちに対して同様の価値を提供し続けることでしょう。
そんなアーバンを私は今後も練習し続けますし、きっと更に多くの学びを得ることだと思います。
皆さんもアーバンをこれまでに使ってきたことと思いますが、使ったことのない方がいらっしゃれば、ぜひこの機に手に取ってみてはいかがでしょうか。
もしかしたら今持っている奏法や音楽の悩みを解決するヒントを得られるかもしれません。
今回はここまで、それではまた!
スケールやフィンガリングに特化したクラークのテクニカルスタディーズについて解説しています。