悩んでいる人
こんな方にオススメの記事です。
この記事のもくじ
はじめに
こんにちは、Hikaruです。
楽器を演奏されている方の多くは学校の吹奏楽部や何かしらのクラブ活動がきっかけで始められたのではないでしょうか。
そのような場所で初めて楽器を演奏する方は、当然知識も経験もありませんから必然的にその場所に常駐している、または時々やってくる先生や講師の方々に楽器の扱い方や演奏の仕方を習います。
私も中学校の吹奏楽部でトランペットを始めたので、最初は部活の先輩や外部講師に色々と教えてもらいました。
しかし大人になって自分自身がレッスンする立場になってくると、部活に在籍していた時に教わっていたことに間違いがあることに気付きます。
特にありがちなのは、体の使い方に関する勘違いや間違った認識です。
楽器は体の変化と深く結びつきがある学問で、一種の運動競技とも言えます。なので体について間違った認識を持ってしまうと、体に無理をかけたまま練習を続けて調子を崩したり、酷い場合には体そのものを壊してしまい、二度と楽器が演奏できなくなってしまう、なんてことも有り得ます。
今回は体の正しい使われ方(あえてこの言い方をします)や人間の体の機能、そして何より長く音楽を続けるための知識を得られる書籍をご紹介します。
パワーアップ吹奏楽! からだの使い方(高垣智)
「パワーアップ吹奏楽!」という吹奏楽部生向けのシリーズから出ている一冊になります。
このシリーズは各楽器の扱い方や特徴について書かれたラインナップと、メンタルやフィジカル、楽器のメンテナンスなどの分野について書かれたラインナップが存在し、こちらは「からだの使い方」をメインにした内容となっています。
著者の高垣智氏は現在トランペット奏者および指導者として活躍している方で、私の先生の一人でもあります。無理のない自然な奏法についての知見が深く、いわゆる吹奏楽部に散見される「肉体強化的」な指導法とは全く異なるアプローチを仕掛けている方です。
本書は大まかに5つの章に分かれています。
- からだと演奏の関係
- 演奏に適した姿勢
- 自然な呼吸で吹こう
- ウォームアップとクールダウン、ストレッチ
- からだのケア
前半の1,2章は主に体の使い方や解剖学に則った実際の体の動きや機能について、音楽のイメージが体を変化させることを貝瀬悦しています。
後半の3,4章は実際に自然な呼吸を目指すための体の使われ方、そして自然な呼吸から生まれる自然な奏法を身に着けていくためにはどうすれば良いか、という内容について多くの例を用いて解説しています。
そして最後の5章は文字通り、演奏によって疲労した体をどのようにケアしていくか、またトラブルが起きた際にどのように対処するべきかといった内容で締めくくっています。
人間の体の仕組みと限界を知る
私も経験があるのですが、吹奏楽部の指導をされる方にはこのようなことを生徒に言う方が散見されます。
本書ではこの指導を気持ちよくぶった切ってくれているのですが、そもそもお腹に息は入りません。これは体の仕組みを少しでも頭に入れておけば簡単に分かります。
実際に空気が入る場所は肺です。肺は意外と大きいので空気が入った時に体の四方八方へ膨らんでいきます。この時にお腹も横隔膜や他の筋肉の動作に合わせて膨らむ(ように見える)ので「お腹に息を入れる」という表現が生まれたのかもしれません。
改めて考えてみれば当たり前のことですが、講師や先生から言われた言葉を、学生は文字通りに受け取ってしまうかもしれません。
「お腹に空気を入れれば良いんだ!」という勘違いをしてしまうと長い時間に渡って成長の妨げになってしまう可能性があります。
これは本来空気が入らない場所に対して呼吸を取り入れようとすることで、不要な場所に力が入ってしまう可能性があり、その不要な力みが演奏における体の動作・運動において様々な妨げとなってしまうからです。
今回は「お腹に息を入れる」に対する指摘を例にしましたが、本書では肺以外にも肩や背中などについても仕組みを解説してくれているので、演奏をする上で最適な体の状態を目指すための参考になるでしょう。
立奏と座奏において使われる体の違いやバランスの取り方についても解説してくれているので、使い分ける必要がある方には非常に役に立つでしょう。
自然な呼吸を身に着けるために
またまた呼吸の話になってしまうのですが、巷でよく言われている「●●式呼吸」というものについて、本書と私の考えは一致しています。
以前高垣氏にレッスン中やレッスン後プライベートでお話させて頂いた時にもよく話題に挙がったのですが、呼吸に方法論を当てはめること自体がそもそもナンセンスなのです。
極論を言ってしまえば呼吸は私たちが母親の胎内にいる時から行っており、現在の日常的に行っていることですから、何ら特別なことではないのです。
しかし私たちは生まれてから生活習慣やストレス社会に身をさらされているうちに自然な呼吸から遠ざかってしまいます。
この失いかけた自然な呼吸を取り戻していくことが、管楽器の演奏において最も重要な課題の一つになります。
本書ではこの自然な呼吸をどのようにして得ていくか、また自然な呼吸がもたらしてくれる演奏への影響を述べています。
そのために解剖学的な知見から呼吸の通り道や呼吸に関わる筋肉の働き、そして自然な呼吸を得るためのトレーニングやストレッチの方法を具体的に解説してくれています。
楽器がなくてもできる内容が多く盛り込まれているので、部活の練習メニューに取り入れたり、日々のルーティンに組み込んで実践することもできます。
特に筋トレや走り込みなどの増強トレーニングからアプローチをしている学校や演奏者にとっては、全く異なる視点からのアプローチになるので最初は戸惑うかもしれませんが、本書を頭から読み込んでいけばストンと腑に落ちると思います。
更に息の流れや柔軟性の大切さにも着目しており、これらを得るための具体的なトレーニングを楽譜にして載せてくれています。個人練習や合奏のメニューに取り入れることで大きな効果が期待できるでしょう。
まとめ
今回は私の師匠の一人である高垣智氏の著書について紹介させて頂きました。
本書は吹奏楽界に未だ広がっている「間違った常識」へ対し一石を投じたもののように私は思います。特に本書が発売された当初はかなりの反響があったのではないでしょうか。
そしてこの間違った常識を今まで作り上げてしまったのはかつて教える側だった人たちです。ですが当時はまだ奏法研究に対して日本は100年諸外国より遅れていると言われており、自然な法則に則った奏法や理論を教えられるだけの知見が揃っていなかったことも事実です。
最近の指導者の方々はこれらを打ち破るべく生徒に寄り添い、大変に尽力なされている方が多く見られ、個人的には喜ばしい動きだと感じています。
生徒側からすればそれまで教わってきたこと、講師側からすれば今まで教えてきたことを急に変えるのは大変な労力が必要かもしれませんが、長く楽器を続けて音楽を楽しみたいのであれば、本書の内容の理解と実線が重要になります。
本書はかなり分かりやすくかみ砕いて書いてくれているので、特に楽器を始めたばかりの初心者や、学生へ指導する講師がどのように生徒に伝えて良いか分からない時の言葉選びのヒントにもなります。
教わる側と教える側の双方にとって有益な本書、ぜひお手に取ってみてください。
今回はここまで、それではまた!