悩んでいる人
こんな方にオススメの記事です。
この記事のもくじ
はじめに
こんにちは、Hikaruです。
金管楽器奏者とは切っても切れないお手入れ用品の一つに、バルブオイルがあります。
バルブオイルは名前の通り金管楽器に使われているバルブシステムをより快適に動作させるために使用されるもので、具体的にはピストンやロータリーなど、音程を変えるのに使用する部分に使われます。
基本的に毎日楽器を演奏する前にバルブオイルは使用されます。練習に慣れている人などは起きたら顔を洗うかのようにキャップを開けてバルブオイルを注油して「さあ練習だ」と流れるように楽器を構え、音出しを始めます。
このバルブオイルがなければ、私たちは快適に「ドレミ」の音階を演奏することはできませんし、ピストンやロータリーの動きが悪くなければ、正しいリズムで演奏することも難しくなります。
このように演奏におけるパフォーマンス向上に大きく貢献しているバルブオイルですが、これ以上に大事な役割を持っていることはあまり知られていません。
ピストンの構造を知る
もちろんピストンやロータリーの動きをスムーズにして、演奏中に引っかかったりしないようにする役割がありますが、それだけではありません。
今回はトランペットを例にしてみましょう。トランペットのトップキャップを開けてピストンを引き出すと、このようになっています。
抜き出したピストンと、ピストンを包むケーシングの間に隙間があるのが見えるでしょうか?この隙間はクリアランスと呼ばれます。
楽器におけるピストンやロータリーの周辺は楽器の心臓部と言えるほど、非常に精密な造りになっています。そのためオイルを挿していない状態でもピストンやロータリーはある程度動かすことが可能です。
しかしよく考えてみてください、このような狭い隙間しかない状態で、ピストンという金属の棒を上下に動かしたらどうなるでしょうか。
当然、ピストンとケーシングは触れ合い、擦れることになります。金属同士を擦れば当然削れてしまいますね。
このように物同士が触れ合ったり擦れるうちに削れてしまうことを、「摩耗(まもう)」と言います。私のトランペットは企業戦士(古いですね)のごとく、日々身を削っているのです。
一日二日であればこの摩耗は目に見えないほど小さいので、演奏していて違和感を覚えることはまずありません。実際に削れるのも一ミクロンに満たないでしょう。
しかし一ヶ月、半年、一年と使い続けるうちに、ピストンは何万回という回数ケーシングと触れ合い摩耗していきます。
摩耗はやがて無視できないレベルになり、人間の目に見えるレベルで隙間が広がってきます。こうなってしまうと音が悪くなったり、ピストンがガタついてしまいます。金管楽器の寿命がやってきてしまいました。
皆さんが頑張って買った楽器です、できれば長くお付き合いしていきたいと思うのが人情ではないでしょうか。
そんな望みを叶えてくれるのが、バルブオイルです。
バルブオイルを使うメリット
バルブオイルは触ってみると分かりますが、とてもツルツルしています。また見ての通り液体なので、ピストンとケーシングのような狭い隙間にも入り込むことができます。
金属同士が直接擦れるのと、隙間にオイルが入り込んだ状態で擦れるのと、どちらがよりダメージが少ないかは明白ですね。
バルブオイルはピストンとケーシングの隙間を埋めることで摩耗を防ぐ重要な役割を持っているのです。
バルブオイルを使用していると、そのうちケーシング下のボトムキャップに黒い汚れが溜まってきます。これはピストンとケーシングが摩耗した結果出てきた金属の削りカスです。
オイルが無ければ摩耗が増えた結果削りカスは増え、またケーシング内部に残ったままとなり、酷い場合には楽器を内側から傷つけていたことでしょう。
これは楽器の寿命を長持ちさせることにもつながり、皆さんがより長く楽器を付き合っていけることになります。
かなり簡単な解説にはなりましたが、バルブオイルの役割について納得頂けたかと思います。
「じゃあどのバルブオイルを使えば良いの?」問題
バルブオイルにも様々なメーカーがあり、メーカーが違えば入っている成分も異なります。
初心者の方から、果ては上級者の方であってもどのバルブオイルを使えば良いのか分からないという方が結構いらしゃいます。
以下は主なメーカーです。
ヤマハ(4種類)、バック(2種類)、ブルージュース、PDQ、ウルトラピュア(2種類)、アルキャスなど、他多数あります。
特に楽器を始めたばかりの方はどれを選んだら良いか分からないと思いますので、ここから先の内容を参考にして頂くと、どのバルブオイルを買えば良いのか分かってきます。
バルブオイルの粘度、楽器の使用年数との関係
バルブオイルには「粘度」と呼ばれるバロメーターがあります。読んで字のごとくネバネバしているか、サラサラしているかです。
※ネバネバしていると言っても、触って分かるほどではありません。
ピストンやロータリーに注油されたバルブオイルは、バルブの動きや重力に従って段々下の方に流れていきます。
サラサラしたオイルは当然流れ落ちるのが早いため、長時間練習しているとピストンの動きが悪くなってきます。重力は偉大です。
ではネバネバした重めのオイルを使えば良いのかと言えば、必ずしもそうではありません。
新品の楽器はピストンとケーシングがほとんど摩耗していないため、粘度の高いオイルを挿してしまうと、隙間をびっちりと埋めてしまうため、逆にピストンの動きを悪くしてしまいます。
逆に二十年も使い倒して隙間が空きまくった楽器に粘度の低いオイルを挿しても、隙間を埋めることが出来ず、ただ流れ落ちてしまうのでピストンの動きは良くなりません。
以下にヤマハが販売しているオイルを例に出します。
左から、スーパーライト/ライト/レギュラー/ヴィンテージ
ヤマハのバルブオイルはこの4種類が販売されており、楽器の状態によって選ぶことができます。スーパーライトほど新しい楽器に、ヴィンテージほど古い楽器にを目安にすると分かりやすいですね。
粘度が高い(重い)オイル:使用期間が長く隙間が広がっている楽器。
粘度が低い(軽い)オイル:新品だったり、使用期間が短い楽器。
ただしあくまで指標の一つでしかないので、必ずしも古い楽器だから粘度が高いオイルを使わなければならない、というわけではありません。皆さんのお好みで色々試してみると、新しい発見があって面白いと思います。
バルブオイルを変えると音が変わる?
バルブオイルは販売しているそれぞれの会社が、ピストンの動作だけでなく音響的な面も考慮して開発をしています。
不思議な話ですが、どんな成分が入っているかで出てくる音や吹奏感が変わってくるのです。
バルブオイルによる音色の違いと使い心地のレビュー記事です、音声付きで解説していますのでこちらもどうぞ。
上記の記事も参考に、「このバルブオイル使いやすそうだな」「このバルブオイルの音良いな」などがあれば、ぜひそちらを試してみてください。
バルブオイルの違いによる微妙な音の変化を聞き分けるのも耳の訓練になるので、とても良い練習になりますよ!
皆さんもぜひ、自分の一本を探してみてください!
- バルブオイルは楽器を長持ちさせてくれる。
- バルブオイルは楽器の状態に合わせて使い分けるのがセオリー。
- 最後はお好みで!
今回はここまで、それではまた!
バルブオイルと同じくらい欠かせない、スライドグリスとスライドオイルについての解説記事です。合わせてどうぞ。